未来のじぶんに、ちょっと先の気づきを
自分らしい働き方を見つけるためのコラム
働く人の「不安障害」――不安に振り回されないために

「この先どうなるのだろう」「失敗したらどうしよう」「あんなこと言ってしまった」。過去や将来において生じるさまざまな「不安」は、誰もが経験する自然な感情です。
不安には、起こるかもしれない危険を予測し、備えるための大切な危機管理の役割もあります。
しかし、不安があまりに強く続き、動悸、発汗、息苦しさ、頭痛、めまいなどの身体症状を伴ったり、仕事や日常生活に大きな支障を及ぼしたりする場合には、「不安症(不安障害)」として治療が必要になることがあります。
不安障害の種類
不安症にもいろいろな種類がありますが、特に働く人にみられる代表的なものを挙げてみましょう。
社交不安症(社交不安障害)
人前で話す、会議で発言する、上司や顧客と話すなど、「人から見られる・評価される」場面で強い不安や緊張を感じます。
「失敗したらどうしよう」「無能だと思われるのではないか」といった考えが頭を占め、実際の場面よりずっと前から不安になる「予期不安」が生じることもあります。
動悸、震え、発汗、赤面、吐き気などを伴い、人前に出ることそのものを避けるようになる場合もあります。
パニック症(パニック障害)
突然、激しい動悸や息苦しさ、発汗、震え、めまい、しびれなどが起こり、「このまま倒れるのではないか」「死んでしまうのではないか」という強い恐怖に襲われるのがパニック発作です。
さらに、「また発作が起きたらどうしよう」という予期不安から、電車や人混み、外出などを避けるようになることがあります。
「急行電車の中で具合が悪くなったら逃げられない」と考え、各駅停車にしか乗れなくなる、といったこともあります。
全般不安症(全般性不安障害)
仕事、家庭、人間関係、健康、事故、災害など、生活のさまざまなことについて漠然とした心配が次々と広がり、自分ではなかなか止められない状態です。
「何となくいつも心配」「何か悪いことが起きそう」という状態が続き、イライラ、集中力の低下、睡眠障害、頭痛、めまいなどを伴うこともあります。
これらの不安症では、うつ病など他の精神疾患を併発する場合もあります。
不安障害の原因

では、なぜ、不安が強くなるのか。
不安症の原因は一つではありません。生物学的・遺伝的な要因に加えて、考え方の傾向や生活環境、これまでの経験などが複雑に影響すると考えられています。
不安に陥りやすい「思考」
たとえば、「失敗してはいけない」「きちんとやるべきだ」と自分を縛る「べき思考」、「成功か失敗か」と極端に考えるゼロ・ヒャク思考、「問題が起きたのは自分のせいだ」と必要以上に自責する考え方が、自分の思考のクセとして定着してしまっていることもよくあります。
こうした思考に共通しているのは、物事を一方向からだけで考え、物事を多角的かつ柔軟に捉えられないことと言えます。
社会生活においては、正解が一つではないことや、やってみなければ分からないこと、立場によって捉え方が180度変わることなども多くあります。
しかし曖昧なことや不透明なことを、何とか確定しようと考えれば考えるほど、不安が大きくなってしまいます。
「環境要因」や「特性」
一方で、職場環境も重要です。
自分一人の責任が大きい、常にミスを許されない緊張感がある、周囲が優秀に見えて引け目を感じる、高圧的な人との関係が続いている――。
こうした日々の小さなストレスが積み重なり、不安を底上げすることがあります。
また、発達特性による認知や情報処理の特徴が関係する場合もあります。
たとえば、仕事の見通しを立てることや複数の業務を同時並行すること、相手の意図を読み取ることなどが苦手だと「また間違えるかもしれない」「失敗するのではないか」という不安につながります。
また、音や人混みなどの周囲への感覚的な敏感さが、心身の緊張を高めることもあります。
「過去の体験」や「身体状態」
さらに、過去のいじめやハラスメント、事故、災害、つらい対人関係などの体験が、「また同じことが起こるのではないか」という警戒心を底上げし、不安につながっている場合もあります。
甲状腺疾患などの身体疾患や、更年期など身体状態の変化、睡眠不足、カフェインやアルコールの影響によって、不安感や動悸が強くなることもあります。
不安への対処法

次に、不安とどう付き合うかを見ていきます。
不安が強く、仕事や生活に支障が出ている場合には、一人で抱え込まず、精神科や心療内科などで相談することをおすすめします。治療には、症状や状態に応じて薬物療法や認知行動療法などが用いられます。
その一方で、自分でできることもあります。
自分でできる対処法その1:「考え」と「事実」を分けてみる
一つ目は、「不安」を醸成している「考え」と「事実」を分けることです。
まず、今感じている不安は「一週間後のプレゼンについて失敗してばかにされるに違いない」と「考えている」ことに気づきます。
一方、「事実」を挙げてみます。
「これだけ準備した」、「上司にも確認した」、「だれも一方的に自分をばかにするひとはいない」、「以前も無事にできて褒められた」、「もし失敗しても自分のすべてが終わるわけではない」と、事実に基づく少し違う見方を探してみます。
不安をゼロにして安心しようとするのではなく、最初の考え方に少し余白をつくるイメージです。
これらの考えを頭の中であれこれ操作すると、堂々巡りになって疲弊しますので、書き出してみて「書いたらオワリ」とするのも良い方法です。
自分でできる対処法その2:マインドフルネス
もう一つがマインドフルネスです。不安の多くは、「ああなったらどうしよう」という、まだ起きていない未来への思考によって膨らんでいきます。
そこで、いったん「今、ここ」に意識を戻します。
静かに座って自然な呼吸に意識を向け、お腹や胸が動く感覚や鼻先に息が通る感覚を観察します。
途中で仕事や心配事などの雑念が浮かんできても構いません。「雑念がわいたな」と「気づいて」、また呼吸に戻ります。
マインドフルネスは、雑念をなくして無になることではありません。
むしろ、考えている自分に「気づき」、「呼吸の感覚」を通して「今」に戻る練習です。
「考えている」自分に気づいてただ俯瞰し、不安を「なんとかしようとしない」という態度がマインドフルネスの肝と言えます。
まとめ:心の在り方が不安をコントロールする
不安とは、「分からないこと」に対し、無自覚にあれこれと心が彷徨って消耗する状態です。
だからこそ、不安を無理に消そうとするのではなく、自分を取り巻く環境を振り返りつつ、自分の快不快を理解し、今起きている事実だけに着目してみる。こうした心のあり方が、不安に使われていた心のエネルギーを、目の前の仕事や生活へと取り戻す一歩になります。
佐藤 恵美
精神保健福祉士・公認心理師・キャリアコンサルタント・臨床発達心理士
北里大学院にて医科学修士取得。精神科病院や都内クリニック副院長を経て、 2020年「メンタルサポート&コンサル沖縄」を設立。企業・公的機関での労働者カウンセリングや職場研修のほか、 キャリアコンサルタント養成にも注力。日本産業精神保健学会理事。著書に『もし部下が発達障害だったら』、『部下の発達特性を活かすマネジメント』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『職場の同僚のフォローに疲れたら読む本』 (PHP研究所) など多数。