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自分らしい働き方を見つけるためのコラム
なぜ、うつ病は長引くのか――回復を妨げる背景と、見直したいポイント

うつ病は、しばしば「心の風邪」と表現されます。だれにとっても身近で、だれでもかかる可能性があるという意味では、分かりやすい表現です。
しかし、風邪には「数日休めば自然に治る軽い病気」というイメージもあります。その点からはうつ病を風邪にたとえることが適切とは限りません。
うつ病と診断された後、数年間にわたって通院や服薬を続ける人もいます。なかには、症状が一度改善しても再び悪化することを繰り返し、10年以上治療を続けている人もいます。
では、なぜうつ病が長引くことがあるのでしょうか。
うつ病の症状と基本治療
うつ病とは、何らかの原因で脳の働きが疲れ切ってエネルギーが枯渇した状態です。症状としては気分の落ち込み、意欲の低下、不安、焦り、悲観的な考え、集中力や思考力の低下などが現れます。
眠れない、体がだるい、疲れやすい、頭痛、めまい、吐き気、喉の違和感、息苦しさなど、身体の症状が出ることもあります。
エネルギーが枯渇して心身の働きが大きく低下している時期には、十分な休養を取ることが治療の基本になります。
症状に応じて抗うつ薬や睡眠を整える薬などを使い、必要であれば仕事を休むなどの環境調整も行います。また、自分とストレスとの関係を理解したり、考え方や行動の幅を広げたりする心理療法が役立つこともあります。
それでもなかなか回復しない場合には、薬の種類や量だけでなく、より広い視点から背景を見直すことが大切です。
日本うつ病学会の『うつ病診療ガイドライン2025』では、うつ病の難治化に関係する要因を複数挙げていますので、その要点を下記に挙げます(※)。
うつ病が5年、10年と長期化する要因
生物学的要因
不安症や心的外傷後ストレス症など、ほかの精神的な問題が併存していると、うつ症状が改善しにくいことがあります。
甲状腺疾患、糖尿病、慢性的な痛み、睡眠時無呼吸症候群などの身体疾患が、疲労感や意欲低下に影響している場合もあります。
薬の効き方や副作用の出方にも個人差があります。副作用のために十分な量を服用できない、服薬を継続しにくいということもあります。
服薬したときに症状の変化なども主治医に伝え、自分に合った調節をしてもらうことが重要です。
また、認知機能の特徴(発達特性)が、仕事や家事、人間関係のストレスにつながっていることもあります。仕事を進める上で、自分にとっての「わかりにくさ」「受け取りにくさ」「やりにくさ」を洗い出し、業務内容や指示の受け方、作業の進め方、物理的環境などにおいて自分にとってやりやすいような工夫や調整をしていくことが重要です。
心理的要因
細かなことにとらわれる、自分を責めやすい、物事を否定的に考えやすい、考えを柔軟に変えることが苦手といった傾向は、心の負担を大きくする場合があります。
また、人に相談できずに一人で抱え込む、気持ちを切り替える方法が少ないなど、ストレスへの対処方法が限られていると、負担が蓄積しやすくなります。
また、幼少期を含む過去のつらい体験が、現在のストレスへの反応に影響していることもあります。考え方の癖に気づき柔軟な思考を練習していく認知行動療法や、今ここに集中し自分の感覚を観察するマインドフルネス瞑想法などの心理療法が役立ちます。
ライフスタイル要因
うつ状態が続くと、外出や人との交流が減り、家に閉じこもりがちになります。
活動が少なくなることで、達成感や楽しさ、気分転換の機会も減り、さらに気分が落ち込むという悪循環が生じます。
また、つらさを紛らわせるために飲酒量が増える、夜更かしによって睡眠のリズムが乱れる、食生活が偏るといった生活習慣も、回復を妨げることがあります。アルコール習慣や生活リズム、睡眠環境、食習慣などを見直します。
環境的要因
治療を受けていても、仕事、家庭、人間関係、経済的な問題などのストレスが続いていれば、十分に休養することはできません。
業務内容が本人の思考性や特性と合っていない、人間関係の緊張が続いている、家族との葛藤がある、家事や子育ての負担が大きいといった、日常的な環境にも目を向ける必要があります。
うつ病が長引くと、自信を失う、仕事や収入を失う、趣味を楽しめなくなる、人との関係が減るなどのストレスが生まれ、そのストレスがさらに症状を悪化させるという循環に入り込むこともあります。
うつ病が長期化した典型的な例
筆者の臨床経験を基にした事例を、理解を深めるためのモデルケースとしてご紹介します。
ある人は、20年近くうつ病の治療を続けていました。疲れやすく、月に何度も仕事を休んでしまうことに悩んでいました。
その人の職場では、来客対応をしながら、事務作業とアルバイトへの指示を同時に行う必要がありました。作業に集中している途中で問い合わせや来客によって中断すると、なかなか元の作業に集中を戻すことが難しく、強い疲労やいら立ちを感じていました。時にアルバイトに強く当たってしまい、後から自分を責めることもありました。
本人は、「体力がなく、集中力もなく、人にも優しくできない。そんな自分だからうつ病が治らない」と考えていました。
しかし、カウンセリングを通して、周囲の音や動きに反応しやすいことや、作業を中断された後に注意を切り替えることが苦手である可能性が見えてきました。
そこで、集中しやすい場所に席を移し、アルバイトからの問い合わせを受ける時間帯を決めるなど、職場環境を調整しました。その結果、作業効率が上がり、疲労感や欠勤も減っていきました。通院は続けていますが、薬の量も減り、仕事にやりがいを感じられるようになりました。
長引くうつ病の背景は、本人の意志の弱さや努力不足ではありません。
治療が一定のパターンになっている場合でも、生活状況、仕事の内容、身体の状態、認知特性、対人関係、職場や家庭の環境を改めて見直すことで、新しい回復の糸口が見つかることがあります。
「なぜ治らないのだろう」と自分を責めるのではなく、「何が回復を妨げているのだろう」と、主治医や心理職などの専門家と一緒に丁寧に整理していくことが大切です。
- ※日本うつ病学会『うつ病診療ガイドライン2025』253頁「うつ病の難治化に関与する要因」を参考に、一般向けに整理しました。
佐藤 恵美
精神保健福祉士・公認心理師・キャリアコンサルタント・臨床発達心理士
北里大学院にて医科学修士取得。精神科病院や都内クリニック副院長を経て、 2020年「メンタルサポート&コンサル沖縄」を設立。企業・公的機関での労働者カウンセリングや職場研修のほか、 キャリアコンサルタント養成にも注力。日本産業精神保健学会理事。著書に『もし部下が発達障害だったら』、『部下の発達特性を活かすマネジメント』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『職場の同僚のフォローに疲れたら読む本』 (PHP研究所) など多数。