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自分らしい働き方を見つけるためのコラム
ADHDの「不注意」とは? 抜け漏れの背景にある4つのつまずきと対策

今回は、ADHDの「不注意」について、少し掘り下げて考えてみたいと思います。
ADHDは「型」ではなく「現れ方」でとらえる
ADHDについて、「不注意優勢型」「多動・衝動優勢型」という言葉を聞いたことがある方も多いでしょう。しかし、米国精神医学会の診断基準DSMでは、2013年に発行されたDSM-5から、それまでの「型(subtype)」ではなく、「現れ方(presentation)」という表現が使われるようになりました。 これは単なる言葉の変更ではありません。同じ人でも、年齢や置かれた環境、仕事内容などによって、どの症状が目立つかが変化するからです。
環境や仕事内容によって、目立つ特徴は変わる
たとえば成人になると、子どもの頃のように立ち歩いたり、じっとしていられなかったりといった外から見える「多動」が目立たなくなる一方、仕事上の抜け漏れや忘れ物、期限管理の難しさなどが全面に目立つようになることがあります(前景化といいます)。同じように、職場に求められる業務内容や職場環境によっても前景化する特性は変ってくるのです。つまり、「この人は不注意だけのタイプ」と固定的に考えるのではなく、現在どのような特徴が強く現れているのかを見ることが大切です。
「不注意」の背景にある4つのつまずき
「不注意」という言葉からは、「ちゃんと聞いていない」「注意が足りない」といった状態をイメージしがちです。そのため、「もっと意識して聞く」「メモを取る」「確認する癖をつける」といった努力で改善できると思われることがあります。
しかし、「不注意」に見える行動の背景には、もっと複雑な情報処理の問題が隠れていることがあります。
たとえば、上司から、「この資料、来週の会議に提出できるように整えておいて」と言われたとします。
ところが会議直前になっても資料ができておらず、添付データにも数字の抜けがあった――。
周囲から見れば、すべて「不注意」に見えるかもしれません。しかし、どこでつまずいたのかを分解すると、少なくとも次の4つの可能性が考えられます。
情報を入れる際のつまづき
説明を聞いている途中で、周囲の話し声や電話、人の動き、頭に浮かんだ別の考えなどへ注意が移り、大事な一言を聞き逃してしまう。その結果、指示の一部が抜けてしまいます。
情報を「持っておく」ことのつまづき
「Aをして、そのあとBを確認して、最後にCもお願い」と複数の情報を一度に伝えられると、途中の情報が頭から落ちてしまう。これはワーキングメモリと呼ばれる、一時的に情報を保持しながら処理する働きと関係しています。
着手し、順序立てて実行することのつまづき
指示されたことは分かっていても、ほかの仕事から切り替えられない。「来週までならまだ大丈夫」と先送りしているうちに、期限が目前に迫ってしまう。あるいは、指示が曖昧だと何から手をつければよいか整理できず、着手そのものが遅れることもあります。
「確認する」ことのつまづき
本人は「最後に確認しよう」と思っていても、そのまま提出してしまう。確認しているつもりでも、同じところを飛ばしてしまう。作業全体を一歩引いて点検することにも、実行機能が関係します。
このように、最終的にはすべて「抜け漏れ」という同じ形で現れていても、その原因は同じとは限りません。
「どこでつまずくか」に合わせて工夫する
だからこそ、不注意への対策には「これさえすれば大丈夫」という万能策はありません。自分がどの段階でつまずきやすいのかを知り、それに合わせて対策を組み合わせることが重要です。
情報を「入れる」際の工夫
たとえば、注意が逸れやすければ、スマートフォンを視界から外す、電話対応と集中作業の時間を分けるなど、環境を調整します。ただし「無音なら集中できる」とも限らず、カフェのように自分と関係のない音が適度にある方が集中しやすい人もいます。
情報を「持っておく」ことへの工夫
ワーキングメモリを補うには、口頭指示だけに頼らず、メモやメール、タスク管理ツールなどに残すこと。復唱して確認することも有効です。録音や文字起こしを利用する場合は、職場のルールや相手の同意にも配慮しましょう。
着手し順序立てて実行することへの工夫
着手が難しい場合には、「資料を整える」ではなく、「①昨年度データを開く→②数字を更新する→③グラフを差し替える」と作業を小さく具体化します。「何のための資料なのか」「今、誰がその作業を待っているのか」「最初に何をすればよいか」などを把握することも役立ちます。
確認することへの工夫
また、確認漏れには、チェック項目を番号で示す、マーカーを引きながら読む、声に出して確認する、提出前チェックを作業工程そのものに組み込むといった方法があります。
失敗体験による不安が、「不注意」を強めることもある
そしてもう一つ重要なのが、失敗体験による不安です。
本人自身も「なぜまた忘れたのか」が分からないことがあります。周囲から「なぜこんなことをしたの?」と問われても説明できず、「自分はだめだ」と自分を責める。それが続くと、今度は「また忘れたらどうしよう」「また怒られるのではないか」という不安が強くなります。
すると、説明を聞いている最中にもその考えが頭を占め、ますます肝心の情報が入りにくくなる――という悪循環が生じます。
だからこそ必要なのは、「もっとしっかりしよう」と自分を追い込むことだけではありません。
メモ、チェックリスト、メール、タスク管理ツール、アラーム、リマインダー、紛失防止タグなど、自分の頭の中だけで覚えたり管理しようとせず、「自分の外」につまずきを補完する機能をつくる、という発想が大切です。
まとめ
ADHDの「不注意」への対策とは、注意力を精神力で高めることではありません。
自分はどこで情報が抜けやすいのかを知り、その部分を環境や仕組み、道具によって補っていくこと。
それが、自責を減らしながら、自分の特性とうまく付き合っていくための重要な第一歩になると思います。
佐藤 恵美
精神保健福祉士・公認心理師・キャリアコンサルタント・臨床発達心理士
北里大学院にて医科学修士取得。精神科病院や都内クリニック副院長を経て、 2020年「メンタルサポート&コンサル沖縄」を設立。企業・公的機関での労働者カウンセリングや職場研修のほか、 キャリアコンサルタント養成にも注力。日本産業精神保健学会理事。著書に『もし部下が発達障害だったら』、『部下の発達特性を活かすマネジメント』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『職場の同僚のフォローに疲れたら読む本』 (PHP研究所) など多数。