未来のじぶんに、ちょっと先の気づきを
自分らしい働き方を見つけるためのコラム
双極性障害のある人が安定して働き続けるために

双極性障害(躁うつ病)は、診断分類でいうとDSM-5-TR*では「双極症」と呼ばれます。気分が高まる状態(躁・軽躁)と、落ち込む状態(うつ)の両方が現れることが特徴です。主にⅠ型とⅡ型があり、Ⅰ型は明確な躁状態がみられるタイプ、Ⅱ型は軽躁状態と強いうつ状態を繰り返すタイプです。
*米国精神医学会(APA)が作成した診断マニュアル本文改訂版
Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th edition, Text Revision
双極性障害の症状と治療
躁状態では、気分の高まりやいらだち、活動量の増加、睡眠欲求の低下、判断の変化(衝動的・楽観的になりすぎる)などがみられます。状態が進むほど、自分ではその変化に気づきにくくなりますが、周囲からは「いつもと違う」と心配されることがあります。
一方、軽躁状態は周囲にも本人も気づきにくく、その後に強いうつ状態が現れて初めて問題として認識されることも少なくありません。そのため、当初はうつ病として治療が始まり、経過の中で双極症と診断が見直されるケースも多数あります。 治療は、気分の波の振れ幅を小さくするための薬による調整と、自分自身の状態を理解し、再発や悪化を防ぐための心理社会的な取り組み(病気の特徴の理解、生活リズムの調整、セルフモニタリングなど)が柱となります。
双極性障害の「気分の波」が仕事に与える影響
自分の中に起きる気分の変化のサインを把握しておくことは、波の振れ幅を抑え、この疾病とうまく付き合っていくためにとても重要です。ここでは、仕事の場面で生じやすい影響についてみていきます。
双極性障害は、「やり過ぎてしまう時期」と「動けなくなる時期」の両方があることが特徴です。気分の波は単なる気分の問題にとどまらず、判断や行動、対人関係にも影響します。
躁・軽躁状態では、睡眠が少なくても平気に感じるほどエネルギーが高まり、仕事を引き受けすぎて収拾がつかなくなったり、判断を急ぎすぎて業務上の重要な決定に影響が出ることがあります。対人面では、主張が強くなりすぎて相手との摩擦が生じたり、強引に話を進めてしまうことや、大量にメール送信しまうなど、不適切な行動につながることもあります。
しかし、軽躁の段階では、残業を重ねたり積極的に発言したりする様子が「意欲的」「よく働いている」と評価されて状態の悪化に気づかれないこともあります。いずれも「やり過ぎ」を重ねることで消耗し、結果としてうつ状態へ移行しやすい点には注意が必要です。
うつ状態になると、エネルギーが低下し、集中しづらい、判断に時間がかかる、ミスが増えるといった影響が出てきます。それでも何とかこなそうとして無理を重ね、さらに不調に陥るという悪循環が生じます。遅刻や欠勤など勤怠の乱れにつながり、安定して働き続けることが難しくなる場合もあります。 また、周囲からは「気分にムラがある」「一貫性がない」「わがまま」と誤解を受けることもあります。しかしこれは意欲や性格の問題ではなく、症状による変動であることを理解することが大切です
安定して働くためのポイント
双極性障害と付き合いながら働くうえで大切なのは、「波をなくす」ことではなく、「波の振れ幅を小さくする」ことです。そのためには、早めに変化に気づき、対応することが鍵になります。
特に重要なのは、躁・軽躁状態の早期発見です。気づきの目安としては、次の3つが挙げられます。
- 睡眠の変化(寝る時間が遅くなる・睡眠時間が減る)
- エネルギーの上昇(活動量や予定が増える)
- 判断の変化(衝動的・大胆になる)
日常生活では、予定を詰め込みすぎる、新しいことをいくつも始める、買い物や発信が増える、いらだちやすくなる、といった変化が見られることがあります。
職場では、先に挙げたように、仕事を抱え込みすぎる、発言量が増える、アイデアが次々出る一方で詰めが甘くなる、といった形で現れることがあります。
こうした変化に気づいたら、早めに主治医に相談し、必要に応じて薬の調整や生活の見直しを行うことが重要です。また、職場でも過重になりすぎないよう、業務量や残業について相談できると安定につながります。
可能であれば、産業医や保健師などの産業保健スタッフに症状についての情報を共有し、状態に応じた対応(業務量の調整や負荷の高い業務の一時的な制限など)についてあらかじめ話し合っておくと安心です。
診断と理解に関する大切な視点
双極症は長期的な経過を踏まえて診断されることが多く、正確な診断までに時間がかかります。また、発達特性による集中の偏り(過集中)や疲労しやすさが、軽躁やうつ状態のように見えることもあります。発達特性と双極症が両方併存する場合もあります。そのため、診察室での本人からの状態説明だけでなく、日常生活や職場での客観的で具体的な様子について、本人の同意のもとで職場から主治医に情報を共有することは、適切な診断と支援につながります。
双極症のある方が働き続けるためには、「頑張り方を調整する」という視点が欠かせません。調子が良いときほど少しブレーキを意識し、調子が落ちているときには休息休養を実践する。その積み重ねが、長く安定して働くことにつながっていきます。
佐藤 恵美
精神保健福祉士・公認心理師・キャリアコンサルタント・臨床発達心理士
北里大学院にて医科学修士取得。精神科病院や都内クリニック副院長を経て、 2020年「メンタルサポート&コンサル沖縄」を設立。企業・公的機関での労働者カウンセリングや職場研修のほか、 キャリアコンサルタント養成にも注力。日本産業精神保健学会理事。著書に『もし部下が発達障害だったら』、『部下の発達特性を活かすマネジメント』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『職場の同僚のフォローに疲れたら読む本』 (PHP研究所) など多数。